2026年9月26日、東京都は大井競馬場で「バスの日イベント2026 in 大井競馬場」を開催しました。
会場には、都営バス、はとバス、関東バス、京浜急行バス、小田急バス、西武バスの6社局が参加。
車両撮影や運転席での記念撮影のほか、現役バス運転士によるトークイベント、お仕事紹介など、子どもたちや若い世代にバスの仕事を知ってもらう企画が行われました。東京都も、イベントの目的として「バス運転士の仕事の魅力を発見できる企画」を掲げています。
全国的にバス運転士不足が続いている中、こうして中学生・高校生など若い世代に、
「バス運転士という仕事がある」
と知ってもらうことは、とても大切だと思います。
私は現役の路線バス運転士として、
バス運転士を目指したいなら、ぜひ目指してほしい
と思っています。
ただ同時に、中学生や高校生だからこそ、
バス運転士になることだけをゴールにせず、5年後、10年後、20年後、30年後の自分まで少し考えてほしい
とも思っています。
バス運転士は地域の生活を支える仕事
路線バスは、単に人を運ぶ乗り物ではありません。
通学。
通勤。
病院。
買い物。
駅までの移動。
車を運転できない高齢者や子どもたちにとって、生活そのものを支える交通でもあります。
厚生労働省の職業情報サイト「job tag」でも、路線バス運転士は、安全に乗客を目的地まで運ぶだけでなく、車両点検、点呼、健康確認、アルコールチェックなどを行う職業として紹介されています。2025年の賃金構造基本統計調査を加工した全国年収は453.1万円、有効求人倍率は2025年度で7.17倍と掲載されています。会社や地域、勤続年数、残業、各種手当によって実際の収入は大きく異なりますが、人材需要が高い職種であることが分かります。
大きなバスを運転して、多くのお客様を毎日安全に目的地まで運ぶ。
簡単な仕事ではありません。
だからこそ、バスが好きで、
「将来バス運転士になりたい」
と思っている中学生・高校生がいるなら、その気持ちは大切にしてほしいと思います。
今は19歳から大型二種を目指せる制度もある
現在、大型二種免許などについては、一定の受験資格特例教習を修了すると、19歳以上で、普通免許等を受けていた期間が通算1年以上あれば試験を受けられる制度があります。
つまり、高校卒業前後に普通免許を取得した若者が、条件を満たして20歳前後でバス運転士を目指す道もあります。
今15歳の中学生なら、2030年には19歳前後。
今17歳の高校生なら、2030年には21歳前後です。
そこで一度考えてみてほしいのです。
2030年のバス業界は、今とまったく同じでしょうか。
2030年、自動運転はどこまで進んでいるのか
国は現在、2030年度までに、バス・タクシー・トラックを含む自動運転サービス車両を国内で1万台導入する目標を掲げています。
また、政府のロードマップでは、経路が一定のバスやトラックなどについて、自動運転の社会実装を進める方向も示されています。
東京では、Waymo、日本交通、GOの3社が、2027年中にレベル4の完全無人走行による商用タクシー運行を目指すことを公表しています。
だからといって、
「2030年になったらバス運転士がいなくなる」
という意味ではありません。
それは現時点では誰にも分かりません。
ただ、今の中学生・高校生が30歳、40歳、50歳になるころまで、交通業界がまったく変わらないと考える方が難しいと思います。
私は、路線バスも自動運転が進む可能性があると思っています
ここからは、あくまで私個人の考えです。
東京では、
「道が狭い」
「歩行者や自転車が多い」
「駐車車両がある」
「工事が多い」
など、自動運転が難しい要素もあります。
一方で、路線バスには自動運転と相性が良い部分もあるのではないかと私は考えています。
路線バスは、
決められた道路を走る。
決められた停留所に停まる。
駅から駅を結ぶ。
同じ経路を繰り返し運行する。
という特徴があります。
政府の資料でも、経路が一定のバスやトラックなどで自動運転の社会実装を進める方向が示されています。
だから私は、将来的には、
人が運転するバス
だけではなく、
自動運転するバスを人が管理する
という働き方が増える可能性もあると思っています。
ただし、どの路線から、いつ、どの程度導入されるかは分かりません。
これは予測であって、確定した未来ではありません。
自動運転になっても、人の仕事が全部なくなるとは限らない
自動運転が進んだからといって、
「人間は必要なくなる」
とも限りません。
現在でも、レベル4に相当する「特定自動運行」の制度があり、安全な運行を管理する役割として特定自動運行主任者という仕組みがあります。
今後、自動運転が広がれば、
遠隔監視。
運行管理。
異常時対応。
現場対応。
安全管理。
利用者対応。
車両やシステム管理。
といった仕事がさらに重要になる可能性があります。
つまり、
「バスを運転する人」から「交通を動かす人」へ仕事が広がっていく可能性がある
ということです。
人手不足なら「1人2役、3役」の人材も必要になるのではないか
これも私個人の考えです。
少子高齢化や人手不足がさらに進めば、
一人が一つの役割だけを持つ組織よりも、
一人が複数の専門性を持つ組織
の方が強くなるのではないかと思っています。
ただし、
「一人に何でも押しつける」
という意味ではありません。
例えば、
運転+運行管理
運転+安全教育
運転+救命
運転+自動運転
交通+データ分析
というように、
自分の本業に、もう一つ、二つ専門性を加えていく考え方です。
バスを運転できる。
そのうえで運行管理も分かる。
安全教育もできる。
ITも少し分かる。
自動運転についても理解している。
そういう人が増えれば、人手不足の時代でも、公共交通を支えやすくなるのではないかと思います。
だからAIやPythonを勉強しても無駄にはならない
今の中学生・高校生なら、AIやデータサイエンス、Pythonなどに触れておくのも良いと思います。
「バス運転士になりたいのにプログラミング?」
と思うかもしれません。
でも、これからの交通では、
需要予測。
利用者データ分析。
ダイヤ作成。
運行実績分析。
AIデマンド交通。
自動運転。
遠隔監視。
車両データ。
など、データを扱う場面が増えていく可能性があります。
だから、
バス+IT
も一つの道です。
途中で進路が変わって、
「やっぱりIT企業へ行きたい」
となっても、その勉強は無駄になりません。
若いうちは、選択肢を一つに絞るより、増やしておいていいと思います。
運転技術だけではなく「会社の仕組み」も学んでほしい
私は、若いバス運転士には、運転だけではなく、
会社がどうやって動いているのか
も少しずつ学んでほしいと思っています。
例えば、
人と組織。
財務。
人件費。
経営戦略。
マーケティング。
リスク管理。
コンプライアンス。
ビジネスフレームワーク。
こうした内容です。
マネジメント教育では、実際に「人と組織のマネジメント」「業務のマネジメント」「リスクのマネジメント」などが体系的に扱われ、業務分野には事業管理、戦略、マーケティング、財務分析なども含まれています。
なぜこんな勉強が必要なのでしょうか。
例えば運転士から見れば、
「給料を月3万円上げてほしい」
と思うことがあります。
それは自然な考えです。
でも会社側は、
「一人3万円」
だけでは考えません。
例えば、仮に対象となる従業員が2,000人いる会社で、一人あたり月3万円の賃上げをするとします。
給与だけでも、
3万円×2,000人×12か月=年間7億2,000万円
増えます。
さらに会社には、社会保険料の事業主負担、賞与、退職給付、採用費、教育費、車両購入費、修繕費、燃料費、設備投資などがあります。
だから、
「黒字だから3万円上げられる」
とも単純には言えません。
反対に、
「会社が無理と言ったから絶対に無理」
とも限りません。
重要なのは、
運転士側だけでも、会社側だけでもなく、両方の数字を見て考えること
だと思います。
経営やマネジメントを勉強する目的は、会社の言うことを何でも受け入れることではありません。
運転士の気持ちも分かる。
会社のお金の仕組みも分かる。
その両方を理解したうえで、
「ではどうすればよいのか」
を考えられる人になることだと思います。
バス運転士には国が示している「学ぶ内容」もある
バス運転士は、大型二種免許を取ってバスを動かせれば、それだけで完成する仕事ではありません。
国土交通省は、
「自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル」
を公開しています。
バス・タクシー・トラックなど業態ごとに作成されており、国土交通省は、事業者には運転者への適切な指導・監督が義務付けられていると説明しています。現在の公開ページでは、各社の運行実態や独自マニュアルと合わせて活用するよう案内されています。
つまり国としても、
「運転操作だけできればよい」
という考えではありません。
安全。
乗客への対応。
車両の特徴。
事故防止。
健康管理。
緊急時対応。
こうした知識を、事業者の教育を通じて身につけていくことが前提になっています。
でも、入社前から全部知っている必要はない
ここは誤解してほしくありません。
中学生や高校生に、
「大型二種も勉強しろ」
「経営も勉強しろ」
「AIも勉強しろ」
「救命もやれ」
「大学も行け」
と全部押しつけたいわけではありません。
最初は、
バスが好き
でいいと思います。
運転してみたい。
大きな車を動かしてみたい。
地域の人を運びたい。
その気持ちでバス会社へ入ってもいい。
必要な安全知識や会社独自のルールは、入社後の研修で身につけていけばいいと思います。
管理する立場についても同じです。
最初から経営、人事、労務、財務、安全管理を全部理解している人はいません。
管理職になってから学ぶこともある。
運転士をしながら少しずつ勉強してもいい。
重要なのは、
「今知らないこと」ではなく、「これから学べること」
だと思います。
大学も「お金がないから無理」で終わらせなくていい
大学についても、最初から諦める必要はないと思います。
「大学はお金がかかる」
「勉強が苦手」
「早く働きたい」
そう思う人もいるでしょう。
でも大学への行き方は、昼間の4年制大学だけではありません。
通信制大学。
通信制短期大学。
働きながら学ぶ。
短大を卒業してから4年制大学へ3年次編入する。
そういう方法もあります。
学校によって学費は違いますが、通信制短大では年間30万円前後で学べるケースもあり、2年間を70万円程度で修了できる学校もあります。
最初から4年間すべてを決めなくても、
まず2年間学ぶ。
短大卒を目指す。
もっと勉強したくなったら3年次編入を考える。
そんな進み方でもいいと思います。
※学費や編入条件は学校ごとに異なるため、実際に進学するときは各学校の最新の募集要項を確認してください。
奨学金があっても、就職先によっては返還支援制度がある
大学や短大へ進学する場合、奨学金を利用する人もいると思います。
現在は、企業等が従業員の奨学金返還残額の一部または全部を、日本学生支援機構へ直接送金する奨学金返還支援(代理返還)制度があります。
JASSOの検索ページでは、2026年9月10日時点で2,342社の制度導入企業が掲載されています。掲載企業の支援額や条件はそれぞれ異なるため、就職時には個別確認が必要です。
つまり就職先を見るときには、
給料だけではなく、
奨学金返還支援。
住宅制度。
免許取得支援。
資格取得支援。
教育制度。
育児支援。
なども比較していいと思います。
「大学へ行くと借金が残るからやめる」
と最初から決めるのではなく、
どんな進学方法があるか、どんな支援制度があるかまで調べてから判断する
ことが大切だと思います。
東京都も「採用」だけでなく「定着」へ動いている
東京都では現在、バス運転士不足による減便・休止・廃止への対応として、運転士の定着を支援する事業を行っています。
「バス運転士定着支援特別手当事業補助金」では、対象となる運転士等への手当を支給するバス事業者を支援しています。東京都自身も、運転士不足を公共交通の持続可能性に関わる問題として位置付けています。
これは、
「人を採用すれば終わり」
ではなく、
入社してもらい、育て、長く働いてもらう
ところまで考える必要があるということだと思います。
私は、その先にもう一つ、
働きながら成長できる仕組み
も必要なのではないかと考えています。
20歳の自分だけではなく、40歳、50歳の自分も考えてみる
例えば今15歳なら、
2031年には20歳前後。
2036年には25歳前後。
2041年には30歳前後。
2051年には40歳前後。
2061年には50歳前後です。
そのときのバス業界がどうなっているのか、正確には誰にも分かりません。
人間の運転士が今と同じように必要かもしれない。
一部が自動運転になっているかもしれない。
遠隔監視で複数台を管理しているかもしれない。
AIデマンド交通がさらに広がっているかもしれない。
逆に、最後まで人間が必要な路線も残るでしょう。
だから私は、
一つの未来を当てる必要はない
と思います。
どんな未来になっても働ける準備をしておけばいい。
バス運転士になりたいなら、ぜひ来てほしい
最後に、もう一度伝えたいことがあります。
バスが好きなら、
ぜひバス運転士を目指してほしいです。
大型二種を取る。
まずは安全にお客様を運べる、一人前の運転士になる。
そこを大切にしてほしい。
その上で、
運行管理を学んでもいい。
救命を学んでもいい。
経営を学んでもいい。
簿記を勉強してもいい。
大学へ行ってもいい。
Pythonを学んでもいい。
データサイエンスを学んでもいい。
自動運転を勉強してもいい。
指導する側を目指してもいい。
管理職を目指してもいい。
ずっと運転士として運転を続けるのも一つの道です。
大事なのは、
「自分には運転しかない」
という状態に自分を閉じ込めないことだと思います。
会社の肩書きだけではなく、
会社を離れても自分に残る、
知識。
資格。
経験。
技術。
人に教えられる力。
そういうものを、一つずつ増やしていけばいい。
「バスを運転する人」から「交通を支えられる人」へ
バス運転士になることは、ゴールではなく、一つのスタートにできます。
20歳でバス運転士になる。
25歳で運行管理を学ぶ。
30歳で後輩を教える。
35歳で自動運転や遠隔監視に関わる。
40歳で管理や交通企画へ進む。
もちろん、これは一つの例でしかありません。
人生は途中で変えていいと思います。
だから今の中学生、高校生には、
5年後、10年後だけではなく、20年後、30年後の自分も少しだけ想像してみてほしい。
バスが好きなら、ぜひバス業界へ。
そして将来、
「バスを運転できる人」だけではなく、
「これからの交通を支えられる人」
になってもらえたらと思います。

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